労災の給付請求書をClaudeで下書きする社労士向け手順
労災保険の請求書で書き損じやすい「災害の発生状況」欄を、時系列メモからClaudeで下書きし、事業主証明や診断書との食い違いを点検する手順をまとめました。
労災保険の給付請求書で、社労士が最も時間を取られるのは「災害の原因及び発生状況」の欄です。本人の話は前後が入り乱れ、事業主の説明とは細部が違い、診断書の受傷日とも数日ずれることがあります。Claudeは、この欄の文章を整えて食い違いを洗い出す作業に向いています。事実を確定する役はしません。事実は依頼人・事業主・医療機関の書類が決めます。
この記事では、厚生労働省のパンフレットにある記入の考え方を土台に、時系列メモから発生状況欄の下書きを作り、事業主証明や診断書と突き合わせるまでの手順を順に説明します。
労災の請求書は様式ごとに何が違うのか
給付の請求は、給付の種類ごとに様式が分かれます。発生状況の記載が中心になる療養と休業について、厚生労働省のパンフレットから様式番号を示します。
| 給付 | 業務災害等の様式 | 通勤災害の様式 |
|---|---|---|
| 療養の給付 | 業務災害等の様式様式第5号 | 通勤災害の様式様式第16号の3 |
| 療養の費用 | 業務災害等の様式様式第7号 | 通勤災害の様式様式第16号の5 |
| 休業(補償)等給付 | 業務災害等の様式様式第8号 | 通勤災害の様式様式第16号の6 |
療養の給付は、労災病院や労災保険の指定医療機関などを経由して提出します。近くに指定医療機関がないなどの理由で指定以外の医療機関にかかった場合は、費用を立て替えて後から請求する「療養の費用」になります。
休業の請求は、休業が長期にわたる場合は1か月ごとの請求が一般的です。休業特別支給金の申請は、原則として休業給付の請求と同時に行い、様式も同一です。
労災保険は、一人でも労働者を使用する事業であれば業種や規模を問わず適用されます。アルバイトやパートも労働者であれば対象です。依頼人が「うちは小さい会社だから」と言う場合の前提として押さえておきます。
「災害の発生状況」欄に書くべき5つの要素
パンフレットの記入例は、療養の給付の請求書について、発生状況を次の5点で書くよう案内しています。
- どのような場所で
- どのような作業をしているときに
- どのような物または環境に
- どのような不安全または有害な状態があって
- どのような災害が発生したか
これを「わかりやすく記入してください」とし、作業内容がわかるように書くことも求めています。負傷の時刻は午前・午後表記で書きます。
休業の請求書の記入例には、次の注記があります。
- 災害の発生した事業場、または主に負荷があったと考える事業場について記載する
- 事故の発生日または発病の日を正確に記入する
- 機械で読み取るため、数字は算用数字で書く
つまり欄の中身は、5要素が欠けずに時間順に並んでいることが要件です。文学的な描写は要りません。
Claudeを使う意味はここにあります。依頼人のメモは5要素のうち2つか3つしか含まないことが多く、足りない要素を見つけて聞き返す作業は、機械的に行えます。
渡す情報と渡さない情報を先に分ける
労災の請求には、被災労働者の氏名・住所・傷病名・賃金額など、要配慮性の高い情報が並びます。Claudeに入力する前に、次の切り分けをします。
| 区分 | 例 | 扱い |
|---|---|---|
| 渡してよい | 例発生状況の経緯メモ、作業内容、場所の種類(倉庫・階段など) | 扱い個人が特定されない形に整えてから入力 |
| 記号に置き換える | 例被災者、同僚、事業主の氏名 | 扱い「被災者A」「同僚B」「事業主」 |
| 渡さない | 例マイナンバー、口座番号、被災者の住所・生年月日 | 扱い請求書の該当欄へ手入力 |
パンフレットは、個人番号が記載された請求書を提出する際の取り扱いに注意を促しています。口座番号も、機械で読み取る欄のため桁の書き方に決まりがあります。こうした欄は、AIを経由させず手で埋めるほうが安全です。
個人情報を含むプロンプトが第三者提供にあたるかは、個人情報を含むプロンプト入力は第三者提供にあたるかで論点をまとめています。事務所の運用ルールを決めるときに合わせて読んでください。
ProjectsにPromptを固定して事務所の型にする
同じ指示を案件ごとに貼り直すと、指示の揺れが出ます。ClaudeのProjectsは、プロジェクトごとにプロジェクト指示(project instructions)を保存でき、その中のチャットすべてに適用されます。ナレッジには文書やテキストを登録できます。
社労士事務所なら、次のような設定が考えられます。
- プロジェクト指示に、発生状況の5要素と「推測で補わず、不足は質問する」ルールを書く
- ナレッジに、事務所の請求書チェックリストと、厚生労働省パンフレットから抜き出した記入上の注意を登録する
- 個別案件の情報は、プロジェクトではなく個別チャットにだけ入力する
例えば、プロジェクト指示は次のような形になります(例示であり、そのまま動作を保証するものではありません)。
あなたは社会保険労務士の補助者です。労災保険の請求書の
「災害の原因及び発生状況」欄の下書きを作ります。
- 入力メモに書かれていない事実は補わないこと
- 次の5要素が揃わない場合は、下書きの前に質問すること
場所 / 作業 / 物または環境 / 不安全・有害な状態 / 災害
- 日時は午前・午後表記、数字は算用数字で書くこと
- 下書きの末尾に「メモに根拠がない箇所」を箇条書きで付けることプロジェクトの共有は、Team・Enterpriseプランで組織内のメンバーに対して行えます。共有には「閲覧可」と「編集可」の権限があります。事務所で共有する場合、案件情報を入れたチャットとテンプレート用のプロジェクトを分けておくと、権限の設計が単純になります。
Projectsの容量が大きくなると、有料プランではRAG(検索拡張生成)が自動で有効になり、容量を最大10倍まで広げます。ナレッジを増やすほど、Claudeが全文を見るのではなく検索した断片を見る場面が増える点は意識しておきます。仕組みはClaude ProjectsのRAG検索の仕組みと全文投入との違いにあります。
Projectsには新しいバージョンのベータも出ています。Claude Codeを使うPro・Maxの一部から提供が始まり、既存のチャットやCoworkのプロジェクトは従来どおり動きます。この記事の手順は、従来のプロジェクトで足ります。
時系列メモから発生状況欄を下書きする
ここからが実作業です。手順は4段階にします。
- 依頼人から聞いたことを、整理せずそのまま箇条書きで書き出す
- Claudeに、発生時刻順に並べ替えさせ、5要素ごとに分類させる
- 欠けている要素を質問として出させ、依頼人に確認する
- 確認結果を反映して、請求書の欄に収まる文章にまとめさせる
入力例は次のとおりです。
# 依頼人メモ(匿名化済み)
- 被災者Aは倉庫で入荷品の仕分け作業中だった
- 台車から荷を下ろしたとき、腰を痛めたと言っている
- 発生は先週の午後だったと思う
- 床に段ボールの切れ端が落ちていたかもしれない
# 依頼
発生状況欄の下書きを作ってください。不足する情報は先に質問してください。この入力に対して期待できるのは、下書きではなく質問です。「先週の午後」では発生日が特定できず、「かもしれない」は状態(不安全な状態の有無)を確定できません。請求書の記入例が「事故の発生日または発病の日を正確に記入」と求めているため、日付が曖昧なまま下書きが出てきたら、指示が守られていない合図です。
質問の答えが揃ったら、次のように指示します。
確認できた事実は次のとおりです。
- 発生日時: 9月22日 午後2時ごろ(タイムカードで確認)
- 場所: 事業場内の入荷ベイ
- 作業: 台車で運んだ荷(段ボール箱)を床へ下ろす作業
- 状態: 床に段ボールの切れ端があり、足元が不安定だった
- 災害: 荷を持ち上げた姿勢で腰をひねり、腰を痛めた
上記だけを使い、5要素の順で200字程度にまとめてください。返ってきた文章は、5要素が順に入っているかを目で確認します。メモにない原因の推測や、災害を重く見せる形容が混ざっていれば削ります。
ここで大事なのは「確認できた事実」の側に根拠を書くことです。例ではタイムカードを根拠にしています。根拠を持たない一文は、請求書に載せる前に依頼人か事業主へ戻します。
似た書類の下書きは、他の手続きの記事にも通じます。任意様式の報告書を作る手順はClaudeで労働基準監督署の是正報告書を下書きする手順、届出書の数値の突き合わせはClaudeで算定基礎届と月額変更届を下書きする手順で扱っています。
事業主証明・診断書との食い違いを点検する
労災の請求書には、事業主の証明欄があります。療養の給付と休業の請求では、請求書に事業主の証明が必要です。休業の請求書の記入例には、事業主の氏名欄に氏名だけでなく代表取締役などの役職名も記入することと、支店長などが事業主の代理人として選任されている場合は、その支店長などの証明を受けることが書かれています。
ただし、療養の費用の請求で、第2回目以降の請求が離職後である場合は、事業主の証明は不要です。休業の請求でも、第2回目以降が離職後であれば証明は不要ですが、療養のため労働できなかった期間の全部または一部が離職前にかかるときは証明が必要です。
事業主の証明と発生状況欄の記載が食い違っていれば、審査で説明を求められる余地が生まれます。提出前に、次の観点でClaudeに点検させます。
| 点検項目 | 突き合わせる先 | 食い違いの例 |
|---|---|---|
| 発生日・時刻 | 突き合わせる先診断書の受傷日、タイムカード | 食い違いの例発生状況は22日、診断書は23日 |
| 発生場所 | 突き合わせる先事業主証明の事業場名・所在地 | 食い違いの例派遣先と派遣元の事業場が入れ替わっている |
| 作業内容 | 突き合わせる先就業規則・業務分担表 | 食い違いの例担当外の作業をしていた形になっている |
| 休業期間 | 突き合わせる先診断書、賃金台帳 | 食い違いの例労働できなかった日と賃金を受けた日がずれる |
| 氏名・役職 | 突き合わせる先事業主証明欄 | 食い違いの例役職名の抜け |
点検の依頼は、複数の書類の内容を貼り付けて行います。次のような指示が使えます。
次の3つを比較し、食い違いと判断できない点を表にしてください。
食い違いの原因を推測せず、「どの書類のどの記載か」だけを示すこと。
[A: 発生状況欄の下書き]
[B: 事業主証明欄の記載内容]
[C: 診断書から書き写した受傷日・傷病名・療養期間]原因を推測させない一文が要点です。日付のずれは、単純な転記ミスの場合も、実際に日をまたいだ事象の場合もあります。どちらかを決めるのはClaudeではなく、依頼人と事業主への確認です。
食い違いの点検も、Claudeの出力をそのまま信じないでください。表に出なかった食い違いが残っている可能性があるため、請求書の原本と書類を見比べる工程は残します。
提出前に押さえる期限と取り扱い
提出の段階では、次の点を確認します。
時効。休業(補償)等給付は、療養のため労働できず賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年を経過すると時効で消滅します。療養の費用は、費用の支出が確定した日の翌日から2年です。療養の給付は現物給付のため、時効は問題になりません。それまでに請求書を提出すれば、時効の問題はなくなります。
法改正の予定。令和8年の労災保険法の改正で、令和9年4月1日から、疾病の性質上、災害補償の事由に該当するか容易に判断できない政令指定の疾病については、療養補償給付等の請求権の消滅時効期間が2年から5年になります。対象は政令で定める疾病に限られるため、一般の請求の期限は変わりません。
押印。労災保険の請求書等は、押印または署名がなくても受け付ける取り扱いです。請求人の記名欄や事業主の証明欄に氏名や住所の記載があれば足ります。押印の有無を理由に依頼人の手を煩わせる必要はありません。
待期期間。休業の初日から第3日目までは待期期間で、業務災害の場合は事業主が労働基準法に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行います。休業補償給付は第4日目から、給付基礎日額の60%に休業特別支給金(同20%)が加わる形で支給されます。請求書の休業日数の欄を下書きするとき、待期の3日を含めていないかを点検項目に入れておきます。
労災かくし。厚生労働省は、故意に労働者の死傷病報告を提出しないこと、虚偽の内容を記載した報告を提出することを「労災かくし」とし、罰則の適用を含めて厳正に対処するとしています。事実と異なる内容や、事実を落とした内容で発生状況欄を整える作業は、Claudeに頼む以前に、この制度の趣旨に反します。
発生状況の文面と点検の役割分担
最後に、社労士とClaudeの役割分担を表にします。
| 作業 | 担う主体 | 理由 |
|---|---|---|
| 依頼人からの事実聴取 | 担う主体社労士 | 理由表情や言い淀みから追加で聞く判断が要る |
| 時系列の並べ替え、5要素の分類 | 担う主体Claude | 理由機械的で、抜けを見つけやすい |
| 不足要素の質問文の作成 | 担う主体Claude | 理由質問リストをそのまま使える |
| 事実の確定、事業主証明の取得 | 担う主体社労士・事業主 | 理由書類上の根拠が必要 |
| 書類間の食い違いの表作り | 担う主体Claude | 理由転記ミスの発見に向く |
| 給付の可否、認定の見通し | 担う主体労働基準監督署 | 理由Claudeは判断しない |
給付の可否は労働基準監督署が判断します。Claudeの下書きが整っていても、認定の見通しは保証されません。下書きの価値は、書類に穴を残さないことにあります。
退職後の手続きに関わる書類(離職票など)も、同じ「材料を分ける、根拠を残す」の型で下書きできます。詳しくはClaudeで退職証明書と離職票の下書きを作る手順を参照してください。就業規則側の視点は、社労士向け生成AI活用ガイドブックとClaudeで就業規則のたたき台を作る手順にまとめています。
まとめ
労災の給付請求書の下書きでClaudeが担うのは、5要素の分類・不足の質問・書類間の突き合わせです。事実の確定と証明は、社労士と事業主の側に残ります。
発生状況欄は、場所・作業・物または環境・不安全または有害な状態・災害の5点が、時間順に並んでいれば形になります。日付は正確に、時効は翌日から2年、待期は3日。この3つは、Claudeの出力に対する最終確認の定番項目です。